著者:埴原一亟
デザイン :櫻井久
版型:四六判上製
頁数:272頁
埴原一亟と聞いて知っている人は、よほどの文学通だと思います。
読み方は、はにはら・いちじょう。
戦前に3度も芥川賞にノミネートされるもいずれも受賞を逃し、古本屋や保育園を経営しながら、ずっと小説を書き続けました。
この作家を知ったのは『昔日の客』のときと同じく、京都の古書店「善行堂」主人、山本善行さんがきっかけです。
「埴原はいいよ」と聞き、さっそく古本屋さんでこの作家の短編集を買い求め、そして作家の
実直な小説世界に夢中になりました。
小説は、おそらく埴原の実生活がベースになっており、主人公は東京のはずれで小さな古本屋を営んでその経営に四苦八苦したり、または「せどり生活」に思い悩んだりします。
大傑作だとはいいません。
しかし、埴原一亟が描く小説世界にひたっていると、文学はいいなあ、本はいいなあ、としみじみ思います。
日本の文学の片隅に、埴原一亟という作家がいた、と知るだけで、きっと、なにか心に満たされるものがあるはずです。
撰者は、山本善行さん。