アンドレ・ケルテス (著), 渡辺 滋人 (翻訳)
創元社
16.5 x 1.5 x 21 cm
76ページ
20世紀で最も重要な写真家の一人として知られるアンドレ・ケルテス。
彼は何かに心を奪われ夢中になっている人々の姿をとらえることに関心をもっていたが、本書は、1915年から1970年まで世界のあちこちで彼が撮影した「読む」ことに心を奪われた人々の姿を集めたものである。
きわめて個人的でありながら同時に普遍的でもある瞬間をとらえたこの写真集は、「読む」という孤独な行為のもつ力と喜びを見事に表現している。
谷川俊太郎氏による「読むこと」という書き下ろしの詩を巻頭に。
大切な人へのプレゼントとしてお薦めしたい一冊。
◎「新版へのまえがき」より
アンドレ・ケルテスの古典的作品集『読む時間(On Reading)』が新版として出版される今日、皮肉なことに、私たちは電子書籍への期待と戸惑いに心穏やかではいられない。デジタルとオンラインの波は印刷メディアに取って代わり、この古い媒体を抹消してしまうかもしれない。
本や新聞を手にとってめくるという馴染みの行為によって、別世界へ引き込まれていく人々─ケルテスがとらえた、時を越えて変わらぬこの情景を、もう一度印刷し直すのにこのタイミングが早過ぎるということはない。
おそらくは書店を営んでいた亡き父の記憶と、それ以上に活字のもつ変化を促す力への深い共感から、ケルテスは読むことに心奪われる人々の姿を撮り始めた。20世紀初めに生まれ故郷ハンガリーで写真撮影を始めた頃からずっと、後にパリやニューヨークに移り住んでも、世界各地を旅していても、このテーマは彼を魅了し続けた。
この小さな本は1971年に最初に出版され、ケルテスの代表的な作品集の一つとなっている。1915年から1970年までの間に撮影された作品一つ一つの中で、あらゆる暮らしぶりの人々が読むときに見せる、きわめて個人的だが同時に普遍的でもある瞬間をケルテスはとらえようとした。屋上で、公園で、混雑する街角で、学芸会の舞台の袖で─考えられるあらゆる場で、写真家のイメージはこの孤独な行為の力と喜びを称える。
キャリアを積んで、ついにはメディアの歴史上最も創意にあふれ、影響力のある、多産な写真家の一人として認められ、個人作品集だけで20冊以上を世に出したケルテスだが、この親しみやすい小さな本は彼自身のお気に入りの一冊であり続けた。